Medical Tribune  2010年11月18日  特別企画 提供●アストラゼネカ株式会社
   アステラス製薬株式会社
座談会 医師と患者のニーズを満たす喘息治療を目指して
− ブデソニド/ホルモテロール配合剤の使用経験と今後への期待 −
 喘息死の大幅な減少における吸入ステロイド薬(ICS)の寄与は明白である。「喘息予防・管理ガイドライン2009」でも、治療ステップ1から第一選択薬に位置付けられた。それでも、日本のICS使用率はまだまだ低いという。こうした中、ICSと長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤、ブデソニド/ホルモテロール配合剤(商品名:シムビコート、タービュヘイラー、BUD/FM配合剤)が登場した。即効性と持続性を兼ね備えた同剤について、京都の喘息専門医4氏に、使用経験と今後への期待を議論していただいた。
呼吸器科川合医院
院長
川合 満 氏(司会)
浅本内科医院
院長
浅本 仁 氏
洛和会音羽病院
呼吸器科 部長
榎堀 徹 氏
京都桂病院
呼吸器センター 部長
西村 尚志 氏

●ICS普及を妨げる
@ステロイド恐怖症
A吸入療法への抵抗
B速効性のなさ
C患者への説明不足

 
川合  近年、喘息に関する研究が進み、その本態は気管支の慢性炎症であることが分かってきました。それに伴い、治療の主役も気管支拡張薬からICSへと交代しました。ICSを用いるようになって、喘息治療は大きく変わりましたね。
 
榎堀  1990年代に5〜6千人だった喘息死が2008年に2,348人になり、入院や緊急受診も激減しました。現在、喘息患者の大半は外来で管理しています。
 
川合  喘息予防、管理ガイドライン2009(JGL2009)でも、ICSは中心に位置付けられていますが、日本での普及はまだ十分とは言えません。これはなぜだと思われますか。
 
浅本  患者さん側の要因として、ステロイド恐怖症、吸入療法への抵抗、速効性がないことによるアドヒアランスの低さなどが挙げられます。医療者側には、患者さんへの説明不足があるでしょう。喘息発作予防には気管支炎症の継続的抑制が不可欠で、その第一選択薬がICSであること、ICS
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は決して怖い薬ではないことをしっかり説明する必要があります。
 
西村  診療所からの紹介患者さんにはICSを処方し紹介元に返していますが、症状が軽くなると服薬をやめてしまい、救急車で運ばれてくる方がいます。患者さんは症状が軽くなると薬をやめたがるものですが、開業医の先生は妥協せず、ICSを継続しなければならない点を十分指導してほしいと思います。
 
榎堀  以前は、ほとんどの喘息患者を開業医が診療していました。ところがICSの導入以降、喘息は呼吸器専門医が診るべき難しい病気となってしまった印象があります。呼吸器が専門でない先生方には、ステロイドに対するためらいがある。この点も、ICSの普及を阻む理由の一つではないでしょうか。
 
●患者さんと医師では
吸入薬への期待にギャップが

 
川合  太田健先生のACTUAL-T研究では、吸入薬への期待が患者さんと医師とで異なることが示されました。患者さんは「効き目の速さ」、医師はそれと共に「発作、増悪抑制効果の持続」を重視するとのことです。医師がICSを処方しても、患者さんが効き目の速い短時間作用性β2刺激薬
            (右上へ続く)
(SABA)ばかり使うのはこのためで、喘息治療の大きな問題点の一つと言えます。
 
西村  患者さんを紹介元へ返すときに、「ICSは続けていく薬であり、やめてはいけません」という紹介状を添えるようにしていますが、それでもICSをやめてしまうのではと、いつも心配しています。
 
川合  小児科ではICSを使わない時代がありましたので、小児喘息からの患者さんについてはICS使用の有無を確認する必要があります。また、喘息の女性が妊娠した場合、ICSを中止する例が少なくありません。そうした患者さんには、ICSを中止して発作を起こす方が、赤ちゃんの脳の発育に悪影響を及ぼす可能性があることを説明すべきでしょう。
 
浅本  私は、ステロイドを過度に恐れる方に「生体でも経口プレドニゾロン換算で5mgぐらいのステロイドが作られています」と説明します。ICSに換算すればすごい量になりますから、納得を得やすいですね。
 
榎堀  ICSとLABAの配合剤は効果が実感できますから、ICS単剤より患者さんも受け入れやすく、治療成績向上に寄与すると思います。
 
            (左下へ続く)

●BUD/FM配合剤は
作用が速やかに表れ持続する

 
川合  新しいICSとLABAの配合剤として、BUD/FM配合剤が登場しました。その特性を紹介していただけますか。
 
浅本  β2刺激薬は一般に、水溶性であれば速効性はあるが持続性に乏しく、脂溶性であれば持続性はあるが速効性に乏しい傾向があります。ところが、BUD/FM配合剤に含まれるホルモテロールは、構造的に両方の特徴をバランスよく備えています。実際、吸入後の1秒量(FEV1)の変化を見ると。吸入後1分後から効果が表れ、かつ持続しています(図1・ここをクリック
 
川合  立ち上がりが速いということは、SABAに近い作用も兼ね備えているということですか。
 
浅本  ほとんどの例でSABAも処方していますが、実際には多くの患者さんはSABAを使わず、BUD/FM配合剤の定期吸入だけで十分なコントロールが出来ています。
 
川合  吸入薬では粒子径が問題になりますが、この点についてはいかがですか。
 
浅本  窒息死には末梢気道の狭窄が関係するといわれます。そして、吸入薬は粒子径が2〜3μmであれば中枢気道だけでなく、末梢気道にまで到達するとされています(図2・ここをクリック)。BUD/FM配合剤の粒子径は2.4〜2.5μmですので末梢気道
            (右上へ続く)
まで到達しやすく、そのメリットは大きいと考えています。
 
川合  用量については、どうなっていますか。
 
浅本  週1回以上喘息症状のある患者さんには1日4吸入(朝2吸入・夜2吸入)で開始しています。重症度に応じて、1日8吸入まで増量することもあります。
 
●中等症までは
BUD/FM配合剤だけで対応可能

 
川合  次に、BUD/FM配合剤の実際の使用経験を聞かせて下さい。
 
浅本  私は、急性発作を起こして来院した男性5例、女性10例の計15例に、その後の長期管理薬として使用しました。治療ステップ2やステップ3の中等症9例、ステップ4の重症が6例でした。BUD/FM配合剤吸入後30分ほどで呼吸苦が改善、ピークフロー(PEF)やFEV1が上昇しました。1週間後のQOL評価(ACQ:喘息コントロール質問票)では、全例で著明な改善が認められました。今までならステロイド点滴を行っていた患者さんが、BUD/FM配合剤だけで改善しました。
 
西村  私の使用はまだ数例ですが、かなり症状が改善しました。ステップ2以上の症例は広くBUD/FM配合剤の適応となるでしょう。高齢者においても、タービュヘイラーの操作が簡単だと好評です。
            (右上へ続く)
榎堀  病院で未採用のため、私はまだ手応えを感じるまでの経験がありません。今日のお話を聞いて、症状が少し強めで、コントロール不良の症例に非常に有効だろうとの印象を受けました。ICS普及には配合剤は非常に有用ですが、BUD/FM配合剤は効果発現の速さと強さでこれをさらに促進すると思います。
 
川合  ICSとSABAを別々に処方すると、いくらICSの使用を勧めても使用せず、SABAだけに頼る方がいます。しかしBUD/FM配合剤では効果が直ぐに表れるので、そういう方もスムーズに受け入れてくれます。BUD/FM配合剤がブデソニド単独の吸入に比べ、喘息増悪を抑えることも報告されており、長期にわたる優れた喘息コントロールが期待できます(図3・ここをクリック)。
 
浅本  ICSとLABAの配合剤を使うと相乗効果があるため、ICSを単独使用する場合の半量程度のステロイドで、同等の効果が得られると言われています。ですから、ICS単剤では効果不十分で増量を考慮するようなケースでは、BUD/FM配合剤を使ったほうがいいと思います。
 
川合  喘息の火種である気道炎症を抑える点でICSは極めて重要ですが、効いたという実感を持てなければ患者さんは使ってくれません。その点で、効果を実感しつつICS治療を行えるBUD/FM配合剤は、大いに期待できる喘息治療薬だと思います。本日はどうもありがとうございました。
           (終了しました)