August 20,2010
喘息予防・管理ガイドライン2009
成人喘息の長期管理における薬物療養プラン、についての私見
− 特にLABAの取り扱いについて −

浅本内科医院  浅本 仁
 
 日本アレルギー学会による喘息予防、管理ガイドライン(JGL)2009はGINA2006に基づいて改訂され、臨床医にとって実用的な内容となりました。
 
 我が国を含む多国のこの分野のリーダーの参加のもとに1995年に公表されたGINAや1997年以後のNIHガイドラインでは各国での文化や医療状況などに配慮したある程度の選択肢が示唆されていますし、当然ながら我が国独自の医療内容がJGLに含まれています。
 
 JGLでの特徴の一つは治療ステップ2以降に長期管理薬に長時間作用性β2刺激薬(LABA)として我が国で開発された貼附薬が含まれていることです【文献1】
 
 さて、交感神経β2受容体刺激薬(β2刺激薬)の原初であるエピネフリンは、芳香族の3番と4番にOHを、5番にHを、そしてアミノ酸の側鎖にCH3を持っています。この3番と4番のOHは、カテコール−0−メチルトランスフェラーゼ(COMT)によるメチル化などによって1時間以内に作用が消失します。また高率のα及びβ1受容体刺激作用をも有します。
 
 β2刺激薬のβ2選択性と作用の増強と作用時間の延長は、3、4番のOHの変換と5番のHの変換とアミノ基の側鎖の延長により達成されました。すなわち、α及びβ1作用がなく、8時間以上効果が持続する第3世代と呼ばれる薬剤を経てβ2選択性がきわめて高く12時間以上作用が持続する吸入β2刺激薬(LABA:サルメテロールとホルモテロール)が開発されました。この二者では短時間作用性β2刺激薬(SABA)に比べて極端に長くなった側鎖により脂肪親和性が高くなり、薬剤が細胞膜内に長時間停滞してβ2受容体の活性部分を持続的に刺激するため効果が長時間持続します。このような理由から、LABAは薬理学的に「12時間以上にわたって作用が継続するβ2選択性のきわめて高い交感神経受容体刺激薬」と定義することが出来るでしょう【文献2】。実際、英国のガイドラインはLABAという言葉を吸入のホルメテロールとサルメテロールのみに限定しています【文献3】
 
 一方ツロブテロールの貼付薬は幼児や高齢者や吸入に対する障害を持つ人々には有用な薬剤です。しかし、徐放薬として長時間にわたり薬剤が放出されることからすれば長時間作用性と言えるものの、薬剤的にはβ2選択性の高くないSABAに属します。つまり、長期に使用することによってタヒフィラキシーやトレランスや心臓血管系への副作用のリスクを有しています。JGLガイドラインでは「この薬剤を長期管理薬として用いるときには吸入ステロイド薬と併用することが必須である」と記載されています。
 
 ツロブテロール貼付薬が選択されるのは多くは次の二つのケースです。一つは医師が簡便性から吸入薬より貼付薬を選択する場合と吸入が困難な患者への選択でしょう。後者ではICSの併用は非現実的ですし、前者ではまずICSを選択してから貼付薬を付加的に使用するのが筋です。又、より有用なICS/LABA配合薬の選択しもあります。
 
 GINAでのLABAの使用は吸入薬のみですし、NIHガイドラインでも経口LABAの使用には否定的です【文献4】。JGLでも吸入薬とそれ以外のLABAの違いを明記し、貼付薬は短期使用が好ましいことや、長期管理薬として使用する場合には、その図表内に貼付薬のLABAにも長期使用でのリスクや、ICSで改善不十分な場合の付加的使用が好ましいことを明記すべきではないでしょうか。
 
【文献1】 日本アレルギー学会 喘息ガイドライン専門部会 喘息予防・管理ガイドライン2009 協和企画 東京 2009年
 
【文献2】 Roux RJ, Crandordy, S and Douglas JS. Functional and binding characteristics of long-acting β2-agonists in lung and heart. Am J Respir Crit Care Med 1996;153:1489-95
 
【文献3】 The British Thoracic Society Scottish Intercollegiate Guidelines Network. British Guideline on the management of asthma, London 2009
 
【文献4】 US National Heart, Lung & Blood Institute and World Health Organization. Expert Panei Report 3 Guidelines for the diagnosis and management of asthma. NHLB/WHO Workshop Report, Washington, DC, NIH, 2007.