気管支喘息の急性増悪の予後に対する
サルメテロール/フルチカゾンプロピオン酸エステル
50μg/500μg配合剤吸入療法の有用性
浅本内科医院： 浅本　仁 東山武田病院内科： 岩﨑　新
（京都府）
　　　　Key Words：　気管支喘息急性増悪－－－－サルメテロール/
　　　　　　　　　　　　　　フルチカゾンプロピオン酸エステル 50μg/500μg配合剤吸入療法
日本臨床内科医会会誌第25巻第1号　別刷　（平成22年6月10日　発行）
■　緒　言
　気管支喘息の病態が気道の慢性上皮剥離性好酸球炎症であり、気道のリモデリングに伴って病態が進行することが明らかになって以来、吸入ステロイド薬（Inhaled Corticosteroid,ICS）が持続性喘息に対する治療の第一選択薬として推奨されるようになった1)。ICSが気管支喘息発症後早期に導入されることによって、より良好な呼吸機能が維持され、急性増悪や喘息死の減少がもたらされた2)。しかし、依然として喘息発作により外来を訪れる患者も後を絶たない。
　気管支喘息の急性増悪には全身性ステロイド薬と短時間作用性β2刺激薬（Short Acting β2 Agonist, SABA）のよる治療が基本である1)。特に全身性ステロイド薬は中等度以上の喘息発作の治療には不可欠とされているが1)が、喘息症状を改善するために投
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　Effect of inhaled combined salmete-
rol/fluticasone proprionate 50μg/500μg therapy in exacerbated asthma
 
　Hitoshi ASAMOTO1),M.D. and Arata IWASAKI2),M.D.
 
　1)Asamoto Clinic of Internal
Medici-ne, 2)Department of Internal Medicine, Higashiyama Takada Hospital
 
受理:2010年1月18日
採択:2010年3月7日		 与後6時間以上を要する3)。近年、高用量のICSが全身性ステロイド薬よりも重症の喘息発作を早期に改善するとの報告もある4,5)。
　一方、長時間作用型β2刺激薬（Long Acting β2 Agonist, LABA）であるサルメテロールとフルチカゾンの合剤（Salmete-rol/Fluticasone Proprionate Combinetion, SFC）が導入されてから、米国では急性増悪と窒息死がさらに減少した。SFCは喘息の長期管理薬としての有用性のみならずそのすみやかな治療効果が注目されている6)が、この薬剤が気管支喘息の急性増悪症例に果たす役割については未だ明らかにされていない。今回われわれは高用量の吸入ステロイド製剤とサルメテロールの合剤であるSFC50μg車線500μg（アドエア）のコントロール不良による急性増悪に対する臨床効果を経口ステロイド薬（Orel Corticosteroid, OCS）と比較し、検討したので報告する。
 
■　研究対象、方法
　1）　対象患者
　気管支喘息の急性増悪のため当院外来を受診し、受診時にGINA（the Global Initiative for Asthma）20067)によるコントロール不良や、GINA20067)または日本アレルギー学会8)の喘息発作重症度基準の軽度・中等度発作に該当する成人気管支喘息患者を、ヘルシンキ宣言に基づき本研究についてのインフォームドコンセントを行って参加に同意が得られた患者を対象とした。
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　気管支喘息増悪のため来院した患者に対し、ACQ（Asthma Control Questionnai-re）9)によるコントロールの程度と発作の程度を評価し、軽度または中等度発作であることを確認後SABA（サルタノール）200μgを喘息が消失するまで最低2回吸入した。その後封筒法にて無作為に2群に分け、グループ1（group1）にはプレドニゾロン0.5mg/kg（20～40mg）を経口投与し、グループ2（group2）にはSFC 50μg/500μgを1日2回吸入した。既存の長期管理薬はすべて中止し、グループ1では0.5mg/kgのプレドニゾロンを7日間経口投与後SFC 50μg/250μgを1日2回、連日吸入とし、グループ2では初日からSFC 50μg/500μgを1日2回、2週間連日吸入した後SFC 50μg/250μg、1日2回吸入に切り替えた。なお、これらの薬剤はSABAで症状の改善が確認された後ただちに投与された。
　対象患者にはミニ・ライトピークフローメーター（英国クレメント・クラーク社）と喘息日誌を渡し、起床時と就寝時にPEFの測定を依頼した。また、初日、7日後、14日後および、可能な症例には28日後にスパイロメトリー検査と喘息QOL（Quality of Life）アンケート調査を行った。
　喘息QOL調査はACQ9)を用いた。ACQは喘息コントロールに関して検証された質問票で、GINAによって推奨されている。
　Juniperら9,10)はACQのすべての項目のトータルの平均スコアを算出し、0をトータルコントロール（total controlled）とし、
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0.75未満をウエルコントロール（well controlled）とした9)。また、治療後の改善度を、平均点で1.5以上上昇した場合を”著明改善（large change）”、1.0以上を”中等度改善（moderate change）”、0.5以上の改善を”やや改善（minimal important change）”と定義した10)。われわれはこれらの基準に従って治療後のQOLを評価した。
　本試験の有効性の指標として治療開始から28日までの家庭での朝のPEF（Peek Expiratory Flow）値と症状スコア（ACQスコア）の推移および治療開始後7日目と14日目におけるスパイロメトリーによる呼吸機能（FEV1：Forced Expiratory Volume in one secondとPEF）の変化量を用いた。
 
　3）　統計処理
　呼吸機能およびACQの測定結果は平均値（M）±標準偏差（SD）で示し、Baselineからの変化量を群間比較した。統計処理にはstudent-t testを用いた。スパイロメトリーはFUKUDA DENSI Spiro Shift SP-470を使用し、連続3回の測定中、最良の値を測定値とした。ACQスコアに基づくトータルコントロールもしくはウエルコントロールの達成患者の群間比較にはχ2検定を用いた。統計ソフトはエクセル統計Statcel 2を使用した。
 
　4）　除外基準
　急性増悪時の症状がGINA20067)や喘息予防・管理ガイドライン20098)の高度発作に相当するもの、中等度発作でも酸素吸入やステロイドの静脈注射を行ったものや、1ヶ月以内にLABAやそのICSとの合剤やOCSを使用した患者やステップ4に相当する患者は除外した。また本試験が治療開始後14日以上続けられなかった場合には集計対象から外した。
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　1）　患者背景
　1999年10月から2001年6月までの間に本試験に登録された患者のうち解析の対象になったのはグループ1の55例とグループ2の53例である。すべて1ヶ月以上前に気管支喘息の診断を受けている。また、発作時に当院を初受診したグループ1の11名とグループ2の13名以外はすべて当院で吸入ステロイドを含むコントローラーが投与されていた。
　登録されたすべての患者にスパイロメトリーによる呼吸機能検査が実施されたが、そのうち家庭でピークフローメーターを14日以上完全に実施できたのはグループ1で29例、グループ2で32例であった。
　　グループ1は男性23例（41.8％）、女性32例（58.2％）で平均年齢は52.2±15.8歳（23～87歳）、グループ2は男性20例（37.7％）、女性33例（62.3％）、平均年齢は52.8±15.7歳（22～79歳）で、受診前の重症度の内訳はグループ1でステップ2が35名（63.6％）、ステップ3が20名（36.4％）、グループ2でステップ2が29名（54.7％）、ステップ3が24名（45.3％）であった。喫煙歴のない患者と喫煙中の患者はそれぞれグループ1で23名（41.8％）と19名（34.5％）、グループ2で25名（47.2％）と14名（26.4％）であった。なお10Pack-years以上の喫煙歴のある者を喫煙者とした。
　各群の対象患者の年齢、呼吸機能およびACQなどのベースライン値と、治療7日後と14日後の結果を表1（ここをクリック）に示した。
 
　2）　呼吸機能検査
　スパイロメトリーによる呼吸機能のうち、PEFとFEV1の値は両群において7日目および14日目で著明に上昇した。SFC 50μg/500μgを投与したグループ2では、FEV1
　　　　　　　　　　　（右上へ続く）		 とPEFの値は治療7日後にOCSを投与したグループ1より上昇する傾向であったが、FEV1では有意差を認めたものの（p＜0.05）（図1（ここをクリック））、PEFでは有意差はなかった（p=0.123）。しかし、ステップ2の症例では、グループ2がより有意な上昇を示した（p＜0.05）。
　在宅モニタリングによる朝のPEFは、グループ2が第1日目においてグループ1より著明な改善を示し（p＜0.01）、この傾向が4日目まで続いた（3日目でp＜0.05）。7日目では、有意差はないものの（p=0.722）グループ2の値が高かった（図2（ここをクリック）、表2（ここをクリック））。以上から、SFC 50μg/500μgは喘息の急性増悪時にOCSより早期に呼吸機能の改善をもたらすことが示され、この傾向は比較的軽症喘息であるステップ2においても顕著であった。
 
　2）　呼吸機能検査
　7ポイントスケールを用いた平均ACQスコアーは、グループ1で3.24±0.82点から治療7日後に1.25±0.69点、14日後に0.53±0.73に、グループ2で3.40±0.89点から治療7日後に0.81±0.71点、14日後に0.51±0.57と両群のすべてにおいて1.5点以上の改善を示した表1。これは Juniper らの基準10)による著明改善に相当したが、治療7日後においてはグループ2がグループ1より統計的に有意な改善を示した（p＜0.001）（表1、図3（ここをクリック））。個々の症例については、治療7日後において、著明改善がグループ2では53例中47例（88.7％）であったのに対し、グループ1では55例中40例（72.2％）であった。また、Juniper らの基準10)による治療によるコントロール程度は、治療7日後には、グループ2で53例中トータルコントロールが3例で、ウエルコントロールとの合計が22例（41.5％）であった
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のに対し、グループ1では、55例中トータルコントロールが2例で、ウエルコントロールとの合計がわずか7例（12.7％）で、グループ2が有意な改善を示した（p＜0.001）（表3（ここをクリック））。治療開始14日後では両群間に有意差がなかった（p＜0.17）。
　以上の結果から、特にステップ2の気管支喘息の急性増悪患者に対してSFC 50μg/500μgがOCSよりもすみやかな治療効果を示すことが示唆された。
　副作用はグループ2では53例中7例（13.2％）に認められ、その内訳は嗄声が3例、口腔真菌症が2例、筋肉痛と動悸とと口内炎がそれぞれ1例であった。そのうち動悸と口内炎の各々1例は本治療医開始後15日目にSFCの吸入を終了した。また、グループ1では56例中5例（9.0％）に認められ、その内訳は嗄声が4例、筋肉痛が1例であった。なお、口腔真菌症の2例はファンギゾンのうがいによって治癒した。
 
■　考　察
　今回の研究の目的は高用量のSFC（SFC50μg/500μg）が喘息発作の治療に有用であるか否かを確かめることである。
　全身性ステロイド薬は喘息の急性増悪を改善し、救急外来の受診率や喘息死を減少させるため1,3)、中等度以上の喘息発作に必要不可欠の薬剤とされる11)。全身性ステロイド薬のうち、OCSは静注の
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　今回われわれが0.5mg/kg（20～40mg）の経口プレドニゾロンを高用量のSFCの対照群として用いたのは、これまで中等度以下の喘息急性増悪患者の大部分がこの用量で7日以内に回復することを確認したためである。また、SFC 50μg/500μgを14日間投与してからSFC 50μg/250μgとしたのは、高用量の配合剤（SFC 50μg/500μg）でコントロールされた後は低容量の配合剤（SFC 50μg/100μg）によって気道の炎症がコントロールされる、というJarjour14)らの報告に基づいている。また、高用量のSFCでCOPD患者に認められる肺炎などの副作用への配慮もある。
　一方、高用量のICSが急性喘息発作に対して全身性ステロイドより有用であるとする報告がある4,5)。その理由は、ICSが気道に直接作用して浮腫や炎症を軽減させて気道の過敏性を低下させるためである15)。また、喘息発作に対して2mg/dayのICSが40mgのOCSと同等の有用性は持つとの報告もある。
　LABAとICSの併用は喘息コントロールに
　　　　　　　　　　　（右上へ続く）		 きわめて有用であることが明らかとなった。すなわち、サルメテロールは、SABAより作用の発現は遅いももの、吸入後15分から気管支拡張作用を発現し、β2受容体への選択性が非常に高く、12時間以上にわたって作用する。そのため、この2種類の薬剤の併用が気管支喘息治療に一躍脚光を浴びるようになり、抗炎症薬に投与にもかかわらず喘息症状が持続する中等症以上の喘息への追加投与にも推奨されるようになった16)。実際、ICSとLABAの併用によって各々の単独投与より喘息症状が良くコントロールされ、気道炎症、気道平滑筋緊張と気道過敏性の改善が促進されることが認められている17)。それはLABAが気管支平滑筋の緊張を低下させ、ICSの抗炎症作用を増進させる18)一方で、ICSが気道のβ2受容体を増加させ、また、両者の併用によって気道のGM-CSFやIL-8などのメディエーター産生を相乗的に低下させるためである18)。
　われわれは今回、喘息急性増悪によって来院した患者のFEV1とPEFを含む呼吸機能が、OCS群とSFC 50μg/500μgの吸入群の両群において改善すること、および特にステップ2の患者群においては、SFC 50μg/500μgがOCS群より急速な改善をもたらすことを報告した。このことは、喘息の急性発作に対して全身性ステロイド薬の効果発現には6時間以上を要する3,6)のに対し、SFCの気管支拡張効果は吸入後15分から1時
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間で現れるという報告19)と一致する。
　ACQは喘息コントロールの指標の一つとしてのQOLを検証するための調査票で、GINAでも推奨されている。Juniperら10)のACQ調査によるQOLは、OCSと高用量のSFCの療法の治療薬によって改善することが示されたが、治療7日目では後者が有意であった。また、治療によるトータルコントロールとウエルコントロールの合計患者率も治療開始7日後では高用量のSFC群がOCS群より有意に高かった。このことから、高用量のSFCが患者のQOLを早期に改善され
　　　　　　　　　　　（右上へ続く）		 ると考えられた。
　喫煙は重症発作のリスクファクターであり、また、ICSの抗炎症作用を阻害する。SFCは喫煙によるIL-8の増加を阻止するため喫煙者に対するICSの効果を回復させるとの報告もある。　SFCの副作用として口腔真菌症や筋肉痛などが認められた。これらはSFC 50μg/500μg群でやや高頻度で、より重症の傾向であった。また、SFC 50μg/500μg群で口内炎などのため長期の投与が困難となった症例も経験した。COPD患者を対象とした試験で肺炎発現頻度が増加す
　　　　　　　　　　　（右上へ続く）		 る可能性があるため、SFC 50μg/500μgをできるだけ早期に、より低用量に替えてのコントロールを考慮すべきであろう。
　今回LABAとICSの合剤が軽症および中等度喘息発作やコントロール不良の治療に有用であることが示唆された。しかし一方、医療費を考慮することも必要である15)。喘息の病態や重症度などを把握し、医療費やコンプライアンスなどを考慮しつつ、喘息薬を選択し、適宜ステップアップやステップダウンを行うことが必要である。
 
　　　　　　　　　　　　　　　（終了）