March 1,2010
喘息予防・管理ガイドライン2009、急性増悪への対応、についての私見
−大発作には酸素吸入を最優先に−

浅本内科医院  浅本 仁
 
 1986年のATSによる喘息に関する公式見解を皮切りに、気管支喘息の本態が気道の慢性上皮剥離性好酸球性炎症であり、吸入ステロイド(ICS)がβ2刺激薬に変わる喘息治療のコーナーストーンであることを骨子とするガイドラインが続々と刊行された。我が国喘息予防・管理ガイドラインはオーストラリア・ニュージーランド(1989)、英国胸部疾患学会(BTS、1990)、米衛生研究所(NIH、1991)、診断と管理のための国際委員会報告(1992)、BTS改訂版(1993)に続いて1993年に刊行された。そして我が国を含む多国のこの分野のリーダーの参加のもとにNHLBIとWHOによるワークショップの報告に基づく"Global Initiative for Asthma"(GINA)が1995年に発表された。それ以後GINA(2006)、NIH(2007)などが新しい概念のもとに続々と改定され、喘息予防・管理ガイドライン(JGL2009)も出版された。
 
 これらガイドラインには慢性及び急性喘息の重症度とそれらに対応する薬剤治療も含まれている。さらに近年ICSと長時間作用型β2刺激薬(LABA)の合剤の有用性が指摘され、GINA2006やJGL2009ではICSの有力な代替薬と位置付けられた。
 
 今回注目したのはJGL2009の急性増悪への対応についてである。ここでは高度の喘息発作への対応としてボスミン、アミノフィリン、ステロイド点滴静注に次いで4番目(中発作では5番目)に酸素吸入が位置付けられている。
 
 重症発作では、生体は低酸素血症に加えて、生体防御機能のために換気不全領域での循環血液量が減少している。そのような状態の時にαやβ1受容体刺激作用を含む交感神経受容体刺激薬を投与すれば心拍出量の増加と血管拡張を促し、心仕事量の増加による酸素消費量の増加に加え、換気不全域への循環血液量を増加させるため、さらに強い生体の酸欠状態を招き、ショックや不整脈の原因になる。そのためこれらの使用前に十分な酸素を与える必要がある。
 
 短時間作用型β2刺激薬(SABA)は軽微ながらβ1受容体刺激作用も有する。かってニュージーランドでフェノテロールによる突然死が問題にされて【文献1】全世界の注目を集めたが、その後の検討で、喘息死の多くはSABAの直接作用よりも重症発作による低酸素血症を助長することに起因するとされた【文献2】。これらの研究の成果を反映してか、BTS2004、GINA2006、NIH2007のすべてのガイドラインでそれ以前の記載を改めて、喘息増悪の管理の最初に酸素を投与すべきことが明記された。しかるにJGL2009では、高度の喘息発作に対しても依然として酸素投与はボスミン、アミノフィリン、ステロイド点滴静注の次に位置付けられている。
 
 前述のように、重症発作時にボスミン注射やSABAの吸入を酸素吸入の前に行うのは危険である。また、酸素投与はSABAによる低酸素血症の悪化を予防するのみでなく、発作中の患者に安心感を与え、その後の治療にも好影響を及ぼすであろう。
 
 JGLガイドラインにおいて、喘息大発作にはまず酸素を投与すべきことを明記すべきである。
 
【文献1】 Sears MR, Taylor DR, Print CG, Lake DC, Li QQ, Flannery EM, et al : Regular inhaled beta-agonist treatment in bronchial asthma, Lancet 1990;336:1391-6
 
【文献2】 Garrett JE, Lanes SF, Kolbe J, Rea HH, Risk of severe life threatening asthma and beta agonist type : an example of confounding by severity. Thorax 1996;51:1093-9