■司 会
久  育男 氏
 
■出席者(発言順)
濱  雄光 氏  京都府立医科大学耳鼻咽喉科学教室
横井 桂子 氏  京都府立医科大学眼科
出島 健司 氏  京都第二赤十字病院耳鼻咽喉科部長
浅本  仁 氏  浅本内科呼吸器科アレルギークリニック院長
平野 信也 氏  平野皮膚科医院院長
 2005年春のスギ花粉大量飛散を予測するニュースが報じられている。
 京都府でも、隔年結実現象や前年夏の気象データやフィールドワークから大量飛散が予測されており、既に2004年11月の時点で、たわわに実った蕾が観測されている。
 そこで今回は、京都府立医科大学耳鼻咽喉科学教室教授・久育男氏の司会のもと、関連診療科である耳鼻咽喉科・呼吸器内科・皮膚科・眼科の臨床医にお集まり戴き、花粉症診療の実際を披露して戴いた。
 大量飛散年の花粉症は、種々の症状を併発し、重症化する傾向があり、専門領域以外の知識も求められてくる。

●今シーズンは近年2番目の大量飛散が予測される
 
久(司会)  本日は花粉症に関連する各診療領域の先生と総合的な花粉症対策を考えていきたいと思います。
 まず、濱先生に「京都府立花粉情報センター」の立場から、2005年春の花粉情報をご提供願います。
 
  当センターにおけるスギ・ヒノキ科花粉飛散予測は
@豊作と凶作が交互に来る隔年結実現象
A前年の気象データ(7月の最高気温、平均気温、降水量、前々年同時期との気温較差など)
Bフィールドワーク(結実状況や落下蕾の確認作業など)
で行いますが、我々の調査から2005年春は大量飛散が予想されます。スギ・ヒノキ科花粉については過去13年間、隔年で大量飛散が来るサイクルは崩れたことはありません(図-1・ここをクリック)。
 大量飛散であった1995年、2001年における前年の夏の気象は猛暑であり、同じく猛暑だった2004年夏の気象と条件が似通っています。2005年のスギ花粉飛散量は、平均気温、平均最高気温、平
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均湿度(60%)、前年・前々年の平均気温差(+4.6℃)から算出すると、過去13年間で2番目の大量飛散が予測されます。
 
出島  濱先生がおっしゃった花粉飛散サイクルから見ても、2005年は大量飛散年に該当する頃合いですね。ただ、昨年は台風が多かったので、枝が落ちて花粉が飛ばないという期待は持てませんか。
 
  2004年11月に北山へ行ったところ、台風到来は早かったためか、枝もあまり落ちず、しっかり実っていました。
 
  大量飛散の前年秋に共通した現象ですが、狂い咲きの影響は、2004年も秋には既にスギ花粉が飛散していたことも、今年の飛散に直結するデータです。
 
  スギは2月下旬から3月、ヒノキは3月下旬から5月の連休明けまでが飛散時期ですから、長期間にわたる大量飛散に対する心掛けが必要です。
 
横井  花粉飛散開始の約2週間前から行う初期治療は、シーズン中の症状を軽減しますが、飛散開始の予測が発表される1月では、初期治療を開始するのにあまり余裕がありません。もう少し早くわかれば、指導や治療を行いやすいのですが。
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  2005年の春に関しては、大量飛散を裏付けるデータが揃っていますから、重症になる可能性の高い患者さんには事前に警告しておく必要があるように思います。
 
●花粉症患者は広範な診療科を受診
 
  次に、スギ花粉症の患者動向についてお伺いします。
 
  まず、低年齢化が挙げられますね。
 文献によると1歳8ヶ月の乳幼児にスギ花粉特異的IgE抗体が確認されていますし、小・中学校の健診報告でも90年代には10%以下だった有病率が20%台になっているようです。
 
浅本  確かに呼吸器科でもお子さんが目立ちますね。ただ、花粉症シーズンはお子さんに限らず咳により風邪を疑う患者さんが増えます。
 検査すると好酸球の増加やIgE抗体が認められますから、花粉曝露による咳喘息やアトピー咳嗽の増悪、呼吸器科では要注意事項です。
 
出島  患者さんの知識が豊富になり、
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耳鼻咽喉科の領域だけでなく他領域の関連症状についても質問されるケースが増えてきました。
 
  症状が多岐にわたる花粉症では専門領域以外の知識も求められてきますね。皮膚科ではいかがですか。
 
平野  花粉飛散シーズンに顔や首にかゆみを伴う皮疹を認める患者さんが来院されたときには花粉抗原の関与を疑います。
 花粉症の方が合併症として皮膚症状を発現する場合のほか、思春期、成人期のアトピー性皮膚炎(AD)が花粉の曝露で増悪するケースもあり、皮膚科でも問題となっています。
 
  AD患者さんが花粉症で増悪する割合はどれくらいですか。
 
平野  30%程度と言われています。特に特異的IgE抗体価が高いほど皮疹が悪化することが多いので、増悪の可能性が高い患者さんには飛散前に注意を喚起しています。
 
横井  眼科でも患者さんの知識向上と共に、自ら花粉症と自覚して受診される方が増えています。
 しかし、適切な治療を行うには花粉症によるアレルギー性結膜炎(図-2・ここをクリック)と他の結膜炎との鑑別も必要です。
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出島  花粉症有病率は世界的に上昇しており。我が国でも30%を越えるのではないかと言われていますので、適切な対応が急がれます。
 
●花粉曝露で3大主徴以外にもさまざまな症状が発現
 
  花粉症診療は専門の知識だけでは臨めないということですが、各領域の主たる症状をご紹介下さい。
 ご存じのように耳鼻咽喉科ではくしゃみ、鼻汁、鼻閉が3大主徴ですが。
 
  大切なのは3症状を一纏めにして考えないことです。症状の出方には個人差があり、各症状が単独の方と、全ての症状がある方とで治療が異なってきます。
 
浅本  呼吸器科では咳と気道炎症ですね。それと耳鼻咽喉科の先生に教えて戴きたいのは、花粉シーズンに痰が喉に詰まり、そのまま気道に落ちていくという訴えが多いのですが、後鼻漏と花粉症は関係ありますか。
 
出島  詳細は不明ですが、強力な抗原が眼球結膜や鼻粘膜にアレルギー性炎症を起こすと、骨髄にサイトカイン産生増加といったような変化を惹起し、下気道
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を含め全身に影響するといった報告があります。
 もちろん鼻粘膜局所からの後鼻漏や神経反射も関与していると言われています。
 
平野  皮膚科領域ではスギ花粉症患者の20%以上で、飛散期に一致した顔面・頸部の皮膚のピリピリ感やかゆみの訴えはあります。
 また、結膜炎に対する掻破行為が、眼周囲の刺激性皮膚炎を生み、?痒・掻破サイクルで慢性化する事例や、鼻のかみ過ぎで湿疹がでることもあります。
 さらに、最近スギ花粉皮膚炎が注目されています。これはスギ花粉症の患者さんで、スギ花粉が接触する顔面や頸部に見られる蕁麻疹様の浮腫性紅斑で、遅発型反応とされています。
 ただ、難渋することが多いのはADの悪化です。ADの皮診部では既にバリア機能が障害されており、抗原の侵入が容易で、アレルギー反応が起こりやすいのです。
 
横井  眼科の場合、大抵の患者さんは眼のかゆみを訴えます。
 さらに、ベースにADがあると、眼瞼炎を併発しやすいので、アトピー要因の有無を把握することは大切です。
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  花粉症の症状が広範であることをご理解戴けたと思います。
 
●診断では他疾患との鑑別が重要
 
  それでは診断に移ります。まず、耳鼻咽喉科領域の診断についてはいかがですか。
 
出島  最近では抗原を確定しないケースも増えていますし、問診と鼻鏡による所見で診断する傾向が強くなっています。
 
横井  眼科では、問診と臨床所見からアトピー要因の有無や他の結膜炎との鑑別に注意しています。
 
浅本  呼吸器分野では、風邪との鑑別が重要です。花粉症シーズンに咳、鼻汁、鼻閉の患者さんが訪れたときは特異的IgE抗体の検査が必須です。
 そのほか、発熱の有無や血中の好酸球や単核球の増加から、症状と勘案して風邪と鑑別します。
 
出島  季節柄、インフルエンザを疑う必要もあります。耳鼻咽喉科では発熱の有無や鼻汁中酸球を調べて鑑別しています。
 
平野  皮膚科について申しますと、ADは乾燥により増悪する疾患ですので、春先は花粉と関係なく悪化します。
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 花粉との関連は特異的なIgE抗体価やスクラッチテストにより判断します。また、スギ花粉症患者に見られるスギ花粉皮膚炎の診断にはスギ花粉抗原によるスクラッチパッチテストが有用です。
 
●エビデンスの確立したオロパタジンはベース薬として適切
 
  治療については、特に大量飛散年では重症化を防ぐ治療が求められま。まずは、初期治療の位置づけについてお聞かせ下さい。
 
出島  2004年のような少量飛散の年では、初期治療のみで1シーズンを乗り切ることも可能ですが、大量飛散年では初期治療だけではコントロールできません。
 ただ、初期治療は重症化を遅らせると事ができ、治療追加の猶予期間ができます。
 
横井  眼科ではケミカルエディエーター遊離抑制薬の点眼による初期治療が有効です。
 重症化を遅らせ、飛散ピーク時のステロイド点眼薬の投与期間を短くすることができます。
 
  飛散開始後の基本治療はいかがですか。
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出島  第2世代の経口抗ヒスタミン薬をベースにした治療が基本です。
 先ほどのお話しにもありましたように、患者さんの知識が豊富になりましたので、有効性や最終全般改善度などのエビデンスが確立された薬剤を選択していくことが重要であると思います。 臨床の場では、重症化してから医療機関に駆け込む方も多く、即効性のある薬剤で、くしゃみ、鼻汁、そしてQOLを低下させる鼻閉への効果が高い薬剤が求められます(図-3・ここをクリック)。
 大量飛散年では患者数が急増し、自ずと診療時間が短くなりますので、安全性が高く、薬物相互作用の記載のない薬剤(表-1・ここをクリック)の選択も重要なことです。
 オロパタジンは、これらに対するエビデンスが確立した薬剤で、使いやすくベース薬に最適です。
 実際にはオロパタジンを使いながら、花粉情報を把握しステロイド薬を上手に組み合わせて使うのがコツです。
 京都では気温15℃を越える前にステロイド点鼻薬を処方し、20℃を越える前に経口ステロイド薬を処方するのが目安となります。
 
浅本  重要なご指摘です。花粉症治療に携わる医師は重症者にステロイド薬を上手に使うことがポイントとなります。
 また、喘息とアレルギー性鼻炎の合併例は多いです(表-2・ここをクリック)。
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 喘息治療に用いる吸入ステロイド薬は、以前は息止めの後に鼻から出すことによって鼻炎に対する副次的な効果が期待できたのですが、最近のドライパウダー式の吸入ステロイド薬は鼻を通す必要がなくなり、副次的な効果は望めません。そこで、別に鼻炎治療を行う必要性が出てきましたが、私の使用経験では、オロパタジンの鼻閉改善作用は確かに強いですね。
 
横井  眼科からの要望ですが、ステロイド点眼液は緑内障を生じる危険性があり、眼圧測定が必須のため、他科では絶対に行わないで戴きたいと思います。
 その点、抗ヒスタミンや点眼液やケミカルメディエーター遊離抑制点眼薬は比較的安全に使用できます。
 
  重要なご提言です。花粉症の症状は多岐にわたるため、他領域の治療が求められることも頻繁です。
 
平野  もし、皮膚科以外の先生が花粉症に伴う皮膚症状にステロイド外用剤を使う場合、特に顔面では1週間使用して効果が見られない場合や、再発が見られたときには皮膚科を受診するように指導して下さい。
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浅本  呼吸器領域では炎症や咳への対応になりますが、喘息合併例では、咳を誘発する非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、β遮断薬、ACE阻害薬は絶対避けて下さい。また、咳喘息に咳止め処方は無効です。
 
  特に咳症状の背景疾患には様々な病態があるため、専門医に紹介した方が良いですね。 
出島  それから、これは重要なことですが、ステロイド薬筋注療法の問題です。きめ細かい対応をすれば経口ステロイド薬までで十分症状のコントロールが可能ですから、致命的疾患でない花粉症に対して、強い副作用が懸念されるステロイド薬筋注療法を安易に実施しないで戴きたいと思います。
 
  薬物以外の現状はどうですか。
 
  まず、抗原の回避、除去が大原則なので、花粉予報を有効に活用して戴きたいです。
 薬物治療以外については、中等症・重症の方に特異的減感作療法を行うこともありますし、本来は通年性アレルギー性鼻炎の治療法であるレーザー治療も飛散の2〜3ヶ月前に行えば、重症化抑制になるという報告もあり、希望者には行っています。
 
平野  花粉から皮膚をガードするため
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に、直接皮膚に接触する下着をはじめとする衣類などは室内で干すなどの生活指導を行っています。
 
●主治医は関連領域の知識を持つべき
 
  最後に、今後の花粉症診療に望むことを一言ずつお願いします。
 
出島  画期的治療が開発されるまでは、既存薬剤で対応するしかありません。その為には専門領域だけでなく、関連領域の医療情報、薬剤の特性を把握し、適切な対応をしていく必要性を痛感しています。
 
横井  眼科医も眼だけでなく、常に多領域の先生のご意見をうかがい、知識を得ることが重要だと思います。
 
平野  特に眼囲などに皮疹が見られる患者さんは、皮膚科だけでは治療が難しい場合もあるので、自分なりの診診・病診連携システムを構築する必要があるのかも知れません。
 
  座談会を通して、花粉症はトータルで管理していくべき疾患であることをお示しできたと思います。
 今後も協力して。診療を行っていきたいと思います。
 本日は有り難う御座いました。
 
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 本記事は協和発酵工業株式会社(現社名:協和発酵キリン株式会社)様の提供でMedical Tribune(2005年1月27日号)に掲載されたものです。