症例1  抗コリン薬で安定化したが喘鳴・呼吸困難を伴い急性増悪を来した症例
68歳 女性
主   訴: 喘鳴、呼吸困難
既 往 歴: 特になし
職 業 歴: 特になし
喫 煙 歴: 20歳より喫煙を開始し、1日平均20本程度の喫煙常習者であったが、2002年2月より10本程度に減らしている(40pack years)
現 病 歴: 50歳ころよりF-H-JⅡ程度の労働時呼吸困難と慢性の咳が続いたため2002年2月に来院した。オキシトロピウムの吸入を行ったから呼吸困難感はなくなり、症状は安定していた。しかし、2004年8月中旬に風邪を引いてから、労作時の喘鳴と軽い労作での呼吸困難と膿性痰を伴う湿性咳嗽を自覚するようになったため2004年9月4日に緊急来院した。
■初診時(2002年2月)の臨床所見
身体所見: 155cm、50kg、体温36.7℃、呼吸数20回/分、脈拍数96回/分、血圧128/80、発育良好であるがやせ気味。
胸鎖乳突筋は腫大。Jugular切痕は1.5横指と短縮。胸郭の呼吸性の運動は良好であるが吸気時に肋間陥凹tp副呼吸筋の緊張を認めた。四肢にチアノーゼや浮腫はない。バチ状指はない。
酸素飽和度はroom airで95%。
強制呼気時に喘鳴を聴取する。呼吸音は清である。
心尖部は乳頭線より2cmほど外側に認めるが心音は清でギャロップもない。
胸部X線所見: 両側肺は過膨張で横隔膜は平低気味である。
呼吸機能検査所見(括弧内はサルタノール吸入後):
FVC 1.71L(1.85)、FEV1 0.64L(0.73)、FEV1% 37.43(39.67)、%FEV1 47.82
MMF 0.20L/s(0.23)、PEF 2.09L/s(1.38)、V25 0.10L/s(0.12)、V50 0.21L/s(0.30)
サルタノール吸入後のFEV1:改善率:14.1%
心電図所見: 心電図(12誘導)は正常範囲の所見
末梢血所見: 白血球数6,200/μL(好中球69%、好酸球5%、リンパ球22.0%)
非特異的IgE 1,843IU/mL、Hb. 13.3g/dL、赤血球 434万/μL、血小板 226万/μL
総蛋白 7.0g/dL、寒冷凝集反応 16倍
臨 床 経 過: 2004年9月4日の来院時には膿性痰と安静時に呼吸困難があり、37.3℃の発熱を認めた。下肢の浮腫とチアノーゼ及び頻呼吸を認め、呼吸時に副呼吸筋を使用した。酸素飽和度は90%と低下した。聴診上呼吸音は低下しており、強制呼気時に喘鳴を聴取、また右背部で気管・気管支音を吸呼気にまたがるcoarse crackleを聴取した。
胸部X線上cost-phrenic angleの鈍化を認めた。
末梢血検査で、白血球数 9,700/μL(好中球 79.5%、好酸球 5.0%、リンパ球 11.5%
異型リンパ球 0.5%)、Hb. 11.6g/dL、赤血球 386万/μL、血小板 265万/μL
総蛋白 6.8g/dL
CRP 3.87mg/dL、寒冷凝集反応×128、血清電解質(Na、K、Cl)に異常所見なし。
血糖97mg/mL
呼吸器感染症による急性増悪として入院し酸素療法を開始した。入院当日に胸部CTで右S10に区域性の淡い浸潤影があり、ごく少量の胸水を認めた。
入院時動脈血ガス所見(100%O2 1L鼻カニューラ下):
PaO2 69Toff、PaCO2 39.2Toff、pH 7.419、HCO3 ¯25.8、SpO2 93.8%
治療と経過: 非定型性肺炎と胸膜炎を伴ったCOPDの急性増悪による急性呼吸不全と考え、酸素療法を継続しつつガチフロキサシン200mgを1日2回、7日間投与した。7日後白血球数6,500/μL(好中球 67%、好酸球 6%)、CRP 0.1mg/dLとなり、呼吸状態も改善し、酸素飽和度もroom airで97%程度と改善したので退院となった。
問 題 点: 1. 初診時と急性増悪時の胸部X線写真の読影とCTの所見
2. 増悪時の聴診所見
3. 喘鳴と総好酸球数の上昇はCOPDの喘息因子を示唆するか?
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